教育の特徴
MDVN管理人がカントー大学で過ごす中で見えてきたベトナムの教育の特徴について,サイゴンの大学生や批判的な眼を持つ大学院卒のベトナム人などの話を加えて,現在のベトナムにおける教育の特徴について意見をまとめた.
まず一番重要なのは,学生が何を知っているかという事にある.ベトナムの教育は「理論」を重視し「実践」が全く無いと言われるのがこの評価方法にある.簡単に言うと日本の受験勉強に酷似しており,いろんな事を知っているのが重要な事とされる.したがってテストの得点には非常に敏感に反応し,その一方で,大学レベルのような研究の組み立て,目的や手法の整理,問題意識というものは驚くほど一般の生徒に欠けている.通常の会話においても,「知識」が最優先され,考え方や物の見方などには全く話題が及ばない.また提出論文などに際しては,中身よりも量,それから体裁に非常にこだわる.教師を尊敬するとよく言われるベトナムで実際に教師の日などもあるが,実態は足を組んで教員に質問し,授業中の私語や勝手に席を離れるなども日常茶飯事で行われているため,日本的な感覚らかすると全く理解しがたい.
よく無責任にベトナム人は勉強熱心でバイクドライバーまで新聞を隅まで読んでいるなどと言われるが,これは全くの間違いである.こと新聞に関しては日本や欧米と異なり,もっとも砕けたベトナム語使われていて話題も非常に身近で興味を掻き立てられる三面記事的なものが中心である.また,学生についても木陰やあらゆるところで本を広げて勉強しており,一見すると非常に勤勉に思えるが,試験で良い点を取るための暗記作業のみである.これについては,ほとんど例外は無く,もし,この教育価値観に疑問を感じたとしたならば,ベトナムの大学で学ぶ事は不可能である.
高等教育機関の場合,奨学金という海外への門戸があるため,多くの学生が奨学金を口に出すが,ほとんどのケースは英語だけとってみても能力的に不可能である.また,研究の熟度が増すほどに洋書の重要性が高まるため,ドクタークラスまで進むベトナム人は,英語の能力が不可欠であり,その多くは海外での学位取得者である.大学においてもドクターを持つ教員は限られており,年功序列型の形式主義的な教師崇拝だけが残っている.一般的にベトナム人教員,とくに海外での学位取得を行っていない教員の講義は非常にまとまりが悪く,一方的に話す内容を生徒がテストのために書き写すという効率が悪い物である.
大学院レベルの場合,各大学のカリキュラムに加えて,教育訓練省が実施する全国共通の教科,「哲学」と「国家英語」がある.哲学については古代インド哲学からドイツなどの西洋哲学を経て,最終的には唯物論的弁証法というマルクス・レーニン主義に言及する.哲学の教員はホーチミン市国家大学,ハノイ国家大学などの教員が持ち回りで各大学院を教えて回る.また,英語については日本の大学受験のような丸暗記を強要する文法,会話,筆記,読解などの分野別の講義が実施される.ホーチミン思想については大学の学部レベルで行われており,同時に,兵役を免除されている大学生には軍事教練(銃の使い方など)が必修で課せられる.
教育や学ぶ事への価値観など,日本とは全く異なるシステムであるため,仮に日本人がベトナムの大学へ留学しても,生理的に合わないものと思われる.自分のケースでは幸いにして専門講義のほぼ全てがデンマークなどの外国人講師によるものであったことと,大学院という専門性の高い教育段階であったことから,ストレスを感じながらも得られるものの方が大きいと言う事かもしれない.いずれにしても,教育分野での発展途上は明白で,これを変えるには相当な時間がかかると思われる.
link http://cantho.cool.ne.jp/ctu/edu/edu.html